はじめに
「衛星画像を使って、土地の変化を自動で把握できないか」
近年、建設会社や自治体からこうしたご相談をいただく機会が増えています。
ただ、いざ調べ始めると「衛星画像は高額なのではないか」「専門知識がないと扱えないのではないか」という壁にぶつかる方が多いようです。
Sentinel-2という衛星のデータは、誰でも無料で利用できるので衛星画像を利用すること自体は言葉で聞くよりハードルが低いです。
Sentinel-2は、EU(欧州連合)とESA(欧州宇宙機関)が進めるコペルニクス計画の地球観測衛星です。全世界の陸地を数日おきに撮影しており、そのデータは商用利用を含めて無償で公開されています。
この記事では、そんな無料で利用できるSentinel-2の基礎知識と、企業や自治体の業務でどう活かせるのかを、開発会社のmicomiaが解説します。
記事の最後にはmicomiaが開発した土地利用検知システムの画像もお見せしながら実際の利用ケースまでご紹介できればと思います。
目次
- はじめに
- 1.Sentinel-2とは
- 1-1.定義
- 1-2.衛星の構成
- 1-3.データは無料
- 2.身近な例で理解する
- 3.仕組み:Sentinel-2のデータを理解する4つのポイント
- 3-1.ポイント1:解像度は10m
- 3-2.ポイント2:13のバンドで撮影している
- 3-3.ポイント3:LevelはL2Aを使う
- 3-4.ポイント4:指数を使って数値化する
- 4.データの入手方法
- 5.ビジネス・行政での活用
- 5-1.建設・不動産
- 5-2.自治体
- 5-3.農業・林業
- 5-4.防災
- 6.導入前に知っておきたい3つの注意点
- 6-1. 雲の影響を受ける
- 6-2. データは無料でも、開発と運用にはコストがかかる
- 6-3. 「変化を検出する」と「変化の理由がわかる」は別
- 7.関連用語
- 8.まとめ
- 9.開発会社としての視点
1.Sentinel-2とは
1-1.定義
Sentinel-2(センチネル・ツー)とは、コペルニクス計画のもとで運用されている光学地球観測衛星です。
「光学」とは、人間の目に見える光(可視光)と、その周辺の赤外線をとらえる方式のことです。カメラで写真を撮るのに近いイメージで理解して問題ありません。
Sentinel-2は主に次のような対象を観測しています。
陸地の土地被覆(森林、農地、市街地、裸地など)
植生の状態
内陸の水域や沿岸域
災害の発生状況
1-2.衛星の構成
Sentinel-2は複数の同型機による「コンステレーション(衛星群)」として運用されています。
衛星 | 打ち上げ |
|---|---|
Sentinel-2A | 2015年6月 |
Sentinel-2B | 2017年3月 |
Sentinel-2C | 2024年9月 |
Sentinel-2Cは2025年1月にSentinel-2Aから運用を引き継ぎ、現在も観測が継続されています。今後はSentinel-2Dの打ち上げも計画されており、長期にわたってデータが供給され続ける前提で設計されている点が実務上の大きな利点です。
2機が同じ軌道上を180度離れて飛行することで、赤道付近で約5日に1回の頻度で同じ場所を撮影できます。日本のような中緯度地域では、これより短い間隔で撮影されることもあります。
1-3.データは無料
Sentinel-2の最大の特徴は、取得された画像が完全に無償で公開されていることです。
コペルニクス計画は「フル・フリー・オープン」というデータポリシーを掲げており、個人・企業・自治体を問わず、商用利用も含めて自由に利用できます。ライセンス費用や従量課金は発生しません。
2.身近な例で理解する
Sentinel-2のデータは、すでに私たちの身近なところで使われています。
分野 | 活用されている例 |
|---|---|
農業 | 作物の生育状況の把握、収穫量の予測 |
防災 | 洪水の浸水範囲の把握、土砂災害の状況確認 |
環境 | 森林減少のモニタリング、水質の監視 |
保険 | 災害後の被害範囲の推定 |
金融 | 農作物の作況把握による相場分析 |
たとえば、大規模な水害が発生した際に「どこまで水が広がっているか」を示す地図がニュースで報じられることがあります。ああした情報の一部は、衛星画像の解析から作られています。
現地に人を派遣しなくても、広い範囲の状況を短時間で把握できる。これが衛星データの本質的な価値です。
3.仕組み:Sentinel-2のデータを理解する4つのポイント
ここからは少し技術的な話になりますが、発注や導入判断をする際に知っておくと役立つ内容に絞って説明します。
3-1.ポイント1:解像度は10m
Sentinel-2の解像度は、最も細かい場所で10メートルです。
これは「画像1ピクセルが地上の10m四方に相当する」という意味です。ここは期待値の調整として非常に重要なので、具体的に整理します。
判別できるもの
造成地や大規模な土地の改変
森林の伐採
農地の状態変化
大規模な太陽光発電施設
洪水による浸水範囲
大型の建築物
判別が難しいもの
人や車両
住宅1棟単位の変化
家庭用の屋根置き太陽光パネル
道路の白線や標識
映画に出てくるような「車のナンバーが読める衛星画像」とは根本的に異なります。Sentinel-2は広い範囲を継続的に見るための衛星であり、細部を精密に見るための衛星ではありません。
ただし、これは弱点ではなく役割分担です。実務では「Sentinel-2で広域をスクリーニングし、変化があった箇所だけ高解像度の商用衛星やドローンで詳細確認する」という組み合わせが、コストと精度のバランスに優れています。
3-2.ポイント2:13のバンドで撮影している
Sentinel-2は、人間の目に見える光だけでなく、見えない波長の光も同時に記録しています。この波長ごとのデータを「バンド」と呼びます。
主要なバンドを整理すると次のようになります。
バンド | 内容 | 解像度 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
B2 | 青 | 10m | 自然な色の画像作成 |
B3 | 緑 | 10m | 水域の判別 |
B4 | 赤 | 10m | 植生の判別 |
B8 | 近赤外(NIR) | 10m | 植生の活性度 |
B5〜B7 | レッドエッジ | 20m | 植生の詳細な状態 |
B11・B12 | 短波赤外(SWIR) | 20m | 土壌の水分、建物、焼失範囲 |
B1・B9・B10 | 補正用 | 60m | 大気やもや、雲の判定 |
ここが通常のカメラとの決定的な違いです。近赤外や短波赤外の情報があることで、見た目ではわからない状態を数値として取り出せます。
たとえば健康な植物は近赤外の光を強く反射しますが、枯れたり刈り取られたりすると反射が弱くなります。この差を使えば、写真を目視するよりも正確に植生の変化をとらえられます。
3-3.ポイント3:LevelはL2Aを使う
Sentinel-2のデータには処理段階があります。実務で使うのは主に次の2つです。
レベル | 内容 |
|---|---|
Level-1C | 大気の影響を含んだ状態のデータ |
Level-2A | 大気の影響を補正した、地表面の反射率データ |
衛星は宇宙から地表を撮影するため、大気中のちりや水蒸気の影響を受けます。同じ場所を撮影しても、日によって大気の状態が違えば、画像の色味も変わってしまいます。
異なる時期の画像を比較する用途では、必ずLevel-2Aを使ってください。大気補正がされていないL1Cで比較すると、「実際には変化していないのに変化したように見える」という誤検出が発生します。
Level-2Aには、雲や雪、水域などを分類した情報も含まれており、雲がかかった部分を解析から除外する処理にも利用できます。
3-4.ポイント4:指数を使って数値化する
複数のバンドを組み合わせて計算することで、土地の状態を1つの数値として表せます。これを「スペクトル指数」と呼びます。
代表的なものは次の3つです。
指数 | 見るもの | 計算式 |
|---|---|---|
NDVI | 植生の量・活性度 | (近赤外 − 赤) ÷ (近赤外 + 赤) |
NDWI | 水域の分布 | (緑 − 近赤外) ÷ (緑 + 近赤外) |
NDBI | 市街地・建物 | (短波赤外 − 近赤外) ÷ (短波赤外 + 近赤外) |
NDVIは−1から1の範囲を取り、値が大きいほど植生が豊かであることを示します。
たとえば、ある場所のNDVIが1年前は0.72だったのに、現在は0.18に下がっていたとします。これはその土地の植生が大きく失われたことを意味し、森林伐採や造成工事が行われた可能性を示す強いシグナルになります。
指数の優れている点は、AIを使わなくても客観的な数値で判断できることです。この後で説明しますが、実際のシステム開発では、AIと指数計算を組み合わせて精度を高めるのが定石です。
4.データの入手方法
Sentinel-2のデータは、Copernicus Data Space Ecosystemという公式プラットフォームから提供されています。無料のアカウント登録で利用を開始できます。
用途に応じて、主に4つの入手方法があります。
方法 | 概要 | 向いている用途 |
|---|---|---|
Copernicus Browser | ブラウザ上で地図から画像を閲覧・ダウンロード | まず試してみたい段階 |
STAC API | 条件を指定して画像を検索・取得するAPI | 自社システムへの組み込み |
S3(オブジェクトストレージ) | データに直接アクセス | 大量データの一括処理 |
Sentinel Hub API / openEO | 加工済み画像や解析結果を取得 | 開発工数を抑えたい場合 |
検討段階の方には、まずCopernicus Browserを触ってみることをおすすめします。
自社の対象エリアを表示して、どの程度の粒度で何が見えるのかを確認できます。ここで「思ったより見える」「思ったより見えない」を体感しておくと、その後の要件定義が格段にスムーズになります。
システムとして自動化する場合は、STAC APIまたはSentinel Hub APIを利用する形が一般的です。
5.ビジネス・行政での活用
Sentinel-2の特性を踏まえると、次のような業務との相性が良いといえます。
5-1.建設・不動産
造成地の発生状況の把握
開発予定地周辺の環境変化の監視
広域での土地利用状況の調査
現地調査に人を出す前に、候補地を絞り込む用途で効果を発揮します。
5-2.自治体
土地利用の変化の把握
無許可造成が疑われる箇所の抽出
山林・農地の状態監視
災害発生時の被害範囲の確認
自治体の担当エリアは広く、職員数には限りがあります。全域を人手で見回るのは現実的ではありません。衛星データで変化の可能性が高い箇所を絞り込み、そこに現地確認のリソースを集中させる。この運用が最も効果的です。
5-3.農業・林業
農地の生育状況の把握
耕作放棄地の候補抽出
森林伐採の検出
植生変化のモニタリング
NDVIとの相性が特に良い領域です。
5-4.防災
洪水・浸水範囲の把握
災害前後の比較
土砂災害発生箇所の候補抽出
なお、光学衛星は雲があると地表を撮影できません。災害時は悪天候であることが多いため、雲を透過できるSAR衛星(Sentinel-1)との併用が有効です。
6.導入前に知っておきたい3つの注意点
期待とのギャップが生まれやすいポイントを、あらかじめ共有しておきます。
6-1. 雲の影響を受ける
日本は雲の多い気候です。梅雨時期などは、数週間にわたって使える画像が取得できないこともあります。
「毎週必ず監視したい」という要件は、光学衛星単独では満たせない可能性があります。実運用では、雲が少ない画像を自動的に選び出す仕組みや、Sentinel-1との併用を検討することになります。
6-2. データは無料でも、開発と運用にはコストがかかる
データ自体は無償ですが、それを業務で使える形にするには、次のような工程が必要です。
衛星画像の検索・取得
座標系と解像度の統一
画像の位置合わせ
雲領域の除外
変化の検出処理
地図上への表示
衛星画像は1シーンあたりのデータ量が大きく、処理には相応の計算資源も必要になります。「データが無料だから安く作れる」とは限らない点は、予算を検討する段階で押さえておくべきポイントです。
6-3. 「変化を検出する」と「変化の理由がわかる」は別
画像を比較して「ここが変わった」と検出することと、「それが何の変化なのか」を判定することは、難易度が大きく異なります。
前者は指数計算や画像差分でも実現できますが、後者はAIモデルの領域になります。しかも、造成工事なのか、季節による植生の変化なのか、単なる収穫なのかを見分けるのは、簡単ではありません。
そのため実務では、まず「変化がある箇所」を確実に抽出し、その内容判定は段階的に精度を上げていくという進め方が現実的です。最初から完全な自動分類を目指すと、開発が長期化しやすくなります。
7.関連用語
用語 | 意味 |
|---|---|
コペルニクス計画 | EUが推進する地球観測プログラム。Sentinelシリーズを運用 |
Sentinel-1 | 電波を使うSAR衛星。雲を透過し、夜間も観測可能 |
Landsat | 米国のNASA・USGSが運用する地球観測衛星。無償公開 |
Change Detection | 異なる時点の画像を比較し、変化領域を抽出する技術 |
NDVI | 植生の量や活性度を示す指数 |
GeoTIFF | 位置情報を含む画像ファイル形式 |
GIS | 地理空間情報を扱うシステムの総称 |
8.まとめ
Sentinel-2は、EUのコペルニクス計画が運用する地球観測衛星です。要点を整理します。
全世界の陸地を数日おきに撮影し、データは商用利用も含めて無料
解像度は10mなので広域の変化把握には有効だが、人や車の識別はできない
13のバンドを持ち、NDVIなどの指数で土地の状態を数値化できる
時系列比較にはLevel-2A(大気補正済み)を使う
Copernicus Data Space Ecosystemから、ブラウザまたはAPIで取得できる
雲の影響を受けるため、災害監視ではSentinel-1との併用が有効
「広い範囲を、継続的に、コストを抑えて見る」——この条件に当てはまる業務であれば、導入を検討する価値は十分にあります。
9.開発会社としての視点
micomia株式会社では現在、Sentinel-2のデータを活用した土地利用 異常監視システムを開発しています。単に衛星写真を閲覧するためのものではなく、土地の不正利用や無許可の造成・開発につながる変化を早期に検知することを目的としたシステムです。
使い方はシンプルです。監視したい土地を地図上で囲み、その土地の「いまの用途(森林・農地など)」を登録します。システムはこの用途を基準に、「その土地で起きてはいけない変化」が発生していないかを継続的に監視します。

監視したい土地を地図で囲み、いまの用途を登録。この用途を基準に「起きてはいけない変化」を判定します。
登録した土地は、2時点の衛星画像を自動で取得・比較し、変化した領域とその面積、そして「異常スコア」を算出します。たとえば森林として登録した土地の一部が裸地や人工地表に変わっていれば、無許可造成の可能性を示すシグナルとして上位に表示されます。広いエリアを人手で見回る代わりに、確認すべき土地を機械的に絞り込めるのが利点です。

システムが自動で検知した「確認の候補」の一覧。案件は衛星画像から機械的に作られ、異常かどうかの最終判断は人が行います。
開発を通じて強く感じているのは、衛星データの活用は「AIをどう使うか」よりも「何をAIに任せないか」の設計が重要だということです。各案件では、異常スコアと同時に「今回の判定に入っていないもの」を明示し、あくまで機械的に算出した候補であって違法性や事実の確定を示すものではないことを、はっきり伝えるようにしています。データや履歴が足りない状態で無理に断定せず、どこまでが根拠のある判断で、どこからが推測なのかを分けて示す——この誠実さが、実務で使えるシステムの条件だと考えています。

検知した案件の詳細。異常スコアと検知理由に加え、「今回の判定に入っていないもの」を明示し、現地確認を前提とした候補として提示します。
たとえば植生の減少判定は、NDVIの差分計算で十分な精度が出ます。ここに無理にAIを使うと、処理コストが増えるだけで精度は上がりません。
一方、変化の内容分類のように、ルールでは書き切れない判断が必要な領域ではAIが力を発揮します。この見極めをせずにすべてAIで解こうとすると、開発費用も運用コストも膨らみます。画像処理ライブラリ、指数計算、AIモデルを適切に使い分けることが、実用に耐えるシステムを現実的なコストで作る鍵になると考えています。

Before / After と変化箇所(赤)を並べて確認。現地に人を出す前に「どこが、どう変わったのか」の根拠を可視化します。
衛星データやAIを活用したシステム開発をご検討の際は、お気軽にご相談ください。要件が固まっていない段階でも、「そもそも実現可能なのか」「どこまでなら見えるのか」といったところからご一緒に整理いたします。







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