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建設現場向け日本語学習アプリ「ゲンゴー」開発記録|外国人技能実習生・多言語対応・4択クイズ設計の裏側

建設現場向け日本語学習アプリ「ゲンゴー」開発記録|外国人技能実習生・多言語対応・4択クイズ設計の裏側

建設現場の外国人技能実習生が直面する、日本語という高い壁

建設業界では、外国人技能実習生の受け入れが着実に広がっている。技術力の高さや勤勉さで現場に欠かせない存在となりつつある一方で、「定着の難しさ」を訴える事業者の声は絶えない。そのきっかけとなった相談が、ゲンゴー開発の出発点だった。

ある建設会社の担当者からこんな相談を受けた。「技術も意欲もある人材なのに、なかなか職場に馴染めない。言葉の壁のせいで孤立してしまうことがある」と。話を聞くうちに、問題の構造が見えてきた。

建設現場では、危険を回避したり作業内容を正確に伝達したりするために、日本語でのコミュニケーションが不可欠だ。指示が理解できなければ安全上のリスクが生まれ、自分の状況を伝えられなければ孤立感が増す。結果として、技術や勤勉さとは無関係に、言葉の壁だけが理由で離職につながってしまう。

だが問題をさらに深掘りすると、単純な「語学力不足」ではないことがわかった。現場で本当に必要な言葉へ触れる機会そのものが少ないのだ。市販の日本語教材を買っても、建設業に特化した語彙は収録されていない。日本語教室に通う時間的余裕もない。そもそも何から学べばいいのかが分からない——このような状況が重なっていた。

「日本語を学ぶこと」と「現場で働けること」を直接つなぐアプリが必要だ。そう判断してゲンゴーの開発を始めた。

なぜ「建設用語特化」にしたのか——一般教材では届かない理由

日本語学習アプリは世の中にたくさん存在する。なぜ既存アプリでは不十分なのか。この問いに答えることが、設計の出発点だった。

一般的な日本語教材には、日常会話、旅行、ビジネスマナーなどの語彙が収録されている。それぞれの文脈に最適化された優れた教材が多い。しかし建設現場という文脈では、根本的なズレが生じる。

たとえば「あさがお」という単語がある。日常の文脈では花の名前だ。しかし建設現場では、高所作業時に地上への落下物を防ぐための防護ネット(朝顔状に広がる形状から命名)を指す。こうした語彙の"二重構造"は、現場に入るまでわからない。一般教材では、このようなズレを補うことができない。

建設業界の語彙には、外来語の音変化(「クランプ」「バイブレーター」など)、職人言葉(「天端」「墨出し」など)、安全に関わる専門的な指示語が多く含まれる。これらを現場で正しく理解できるかどうかは、作業の品質と安全に直結する。

もう一つ重要な視点がある。学習時間が限られているという現実だ。技能実習生は現場で働きながら学ぶ。帰宅後の疲れた状態で数時間勉強するのは難しい。だからこそ、「何を学べばいいか迷わずに済む」ことが重要になる。

汎用的な日本語学習アプリでは、数千から数万の語彙の中から建設現場で使う言葉を自力で選び出す必要がある。建設用語に特化することで、「今すぐ現場で役立つ言葉だけ」に絞り込まれた学習ができる。この効率性こそが、特化の最大の価値だと判断した。

さらに、学んだことが仕事の中で「あ、これのことか」と結びつく瞬間が生まれやすい。一般語彙では実感を持ちにくい学習も、翌日の現場でそのまま使えると分かれば、継続するモチベーションが生まれる。特化型は、学習効率だけでなく学習意欲にも効く設計だ。

4択クイズ形式を選んだ設計思想——続けやすい学習体験をどう作るか

ゲンゴーの中心機能は建設用語クイズだ。ただし、クイズという形式自体が目的ではない。「続けられる学習体験」を実現するために、4択クイズが最適解だったという順序で考えた。

開発当初に最も大きな課題として置いたのは「勉強習慣をどう作るか」だった。学習内容の品質以前に、毎日少しでも触り続けてもらえる状態を作らなければ、どれだけ優れた教材でも意味をなさない。

自由記述式や穴埋め問題では、学習の開始ハードルが高い。正解がわからない不安、入力の手間、時間がかかる感覚——これらが積み重なると、忙しい帰宅後のひとときに「やっぱり今日は疲れたからいいや」となりやすい。

4択なら、選択肢を見て「これかな?」と直感的に判断できる。知識が曖昧でも挑戦できる。これが、学習を始めるための心理的ハードルを大きく下げる。初心者でも「とりあえずやってみる」に変換しやすい形式だ。

また、選択肢の設計で難易度を調整できる点も重要だ。実際の現場で混同されやすい言葉を選択肢に並べることで、単純な正誤確認を超えた、実践的な判別訓練になる。

正解時の演出にもこだわった。正解すると「はなまる」が表示される。日本の学校文化に根ざしたこの演出は、単なる達成感だけでなく、「日本の文化に少し触れた」という感覚を与える。外国人学習者にとって、こうした小さな異文化体験の積み重ねが、日本への親しみを育てることにもつながる。

不正解時は答えと解説を即時表示する設計にした。「あとで見直してください」では、そのまま流れてしまうことが多い。その場で解説が目に入ることで、自然に理解が深まる。復習の習慣を別途作らなくても、プレイの流れの中で学びが完結する。

問題数は700問以上ある一方で、1ユニットを10問に絞った。「全部やらないといけない」ではなく、「10問だけやろう」と思えること。ボリュームがあっても1回ごとの体験を軽くすることで、「少し時間があったらやる」日常習慣につながりやすくなる。

学習アプリでは、正しい知識を載せることと同じくらい、始めやすさと終えやすさが重要だ。ゲンゴーのクイズ設計は、この基本を徹底して押さえた。

一方で、あえて入れなかった機能もある。ランキング機能だ。競争要素は一見モチベーションを高めそうだが、建設現場で働き、帰宅後に勉強する人にとって、他人と比較されるプレッシャーは必ずしも学習の助けにならない。個人の成長に集中できる環境を優先することが、長期的な継続率に効くと判断した。

多言語対応の実装——母語で理解し、日本語に慣れていく設計

外国人技能実習生向けアプリを作るうえで、多言語対応は避けられないテーマだった。しかし「翻訳をつけること」が目的ではない。学習者が安心して始められること、そして母語での理解から日本語習得へ自然に移行できること——この2点を達成するための手段として多言語対応を設計した。

対応言語は日本語・英語・ベトナム語・インドネシア語の4言語だ。この選定には明確な根拠がある。建設業界における外国人技能実習生の出身国として最も多いのが、ベトナムとインドネシアだからだ。英語はグローバル共通語として加え、母語が4言語のいずれでもない学習者への橋渡しとなる。

学習設計の順序として、まず母語で概念や意味を理解することを優先した。いきなり「日本語を日本語で理解する」ことを求めると、単語の意味を把握する前に挫折してしまう。母語で「これはどういう意味か」を先に理解し、そのうえで日本語の音と表記に慣れていく。この流れが、学習の定着率を高める。

心理的な側面も大きい。知らない言語だけで学ぶこと自体が、すでに高い負荷を伴う。そこに母語のサポートがあると、学習の入口が大きく広がる。「何を言っているかまったくわからない」という状態を解消するだけで、継続率は変わってくる。

実装面では、単純な翻訳の追加以上の工夫が必要だった。端末の設定言語を検知して自動切り替えする機能を実装したほか、言語ごとに文字数や文字幅が大きく異なるため、UI崩れが発生しないよう各言語でのレイアウト検証を繰り返した。ベトナム語やインドネシア語は、日本語や英語と比べて文字列の長さが変わりやすい。「翻訳したら文字が枠からはみ出た」「ボタンのラベルが途中で切れた」といった問題を一つひとつ潰すことで、どの言語でも同じ使い心地を実現した。

アジア地域出身者の中には、母語と英語を使い分ける複数言語環境で育った人も多い。柔軟な言語切り替えは、そうした学習者にとっても使いやすさに直結する。多言語対応は、このアプリの基盤機能の一つだ。

JLPT対策を追加した理由——学習アプリのスコープをどう広げるか

建設現場で使う日本語だけに絞れば、もっとシンプルなアプリにできたはずだ。それでもゲンゴーにJLPT(日本語能力試験)N4対策機能を追加したのは、視野を「現場の仕事」だけに限定しなかったからだ。

技能実習生が日本で生活するうえで、日本語が必要な場面は現場だけではない。買い物、病院での診察、行政手続き、日常的なコミュニケーション——これらすべての場面で、基礎的な日本語力が求められる。

JLPTのN4レベルは、通常会話の基礎がひととおり整う段階だ。このレベルまで学べると、日常生活の多くの場面で最低限の意思疎通ができるようになる。建設用語に特化した学習で仕事のコミュニケーションを支え、JLPT対策で日常生活の語彙・文法を補う。この二つが一つのアプリに収まることで、学習の目的が自然に広がる。

もう一つの理由がある。JLPT合格は、学習者にとって客観的な達成指標になる。「現場で使えるようになった」という感覚は主観的だが、「N4に合格した」は明確な成果として残る。資格取得というゴールを設定することが、学習継続のモチベーションになる。

現場特化と試験対策は、一見別々のテーマに見える。しかし実際には、「仕事で使う言葉を学びながら、生活全体の日本語力も上げていく」という流れは自然につながっている。アプリの中でこの二つがつながっていることで、ゲンゴーは「仕事用語アプリ」にとどまらない設計になった。

AIと翻訳機能の役割設計——「今」と「将来」を一つのアプリで支える

ゲンゴーには、クイズや動画学習だけでなく、AI対話サポートと翻訳機能も搭載している。一見すると機能が多く見えるが、それぞれの役割はかなり明確に分かれている。学習機能が「将来の日本語力」を作るのに対し、翻訳とAIは「今この瞬間のコミュニケーション」を支えるという構造だ。

日本語を学び始めたばかりの段階では、現場での会話が即座にスムーズになるわけではない。単語を学んでも、実際の会話スピードについていくのは難しい。作業指示を受けた瞬間に意味が取れなければ、そこで問題が生じる。このギャップを埋めるために翻訳機能を用意した。

学習の進行中でも、現場でのコミュニケーションが途切れないようにする。これが翻訳機能の本質的な役割だ。「まだ勉強中だから現場では困ります」では本末転倒になってしまうからだ。

AI対話サポートを入れた理由には、もう一つ現実的な背景がある。建設現場では、作業中に手袋をしていることが多い。スマートフォンのキーボードで細かい文字入力をするのが難しい状況だ。AI対話は、こうした現場の使い勝手から逆算して考えた機能だ。単に「最新のAI機能を入れた」のではなく、現場での実用性を起点に設計されている。

一方で、建設用語クイズ、動画コンテンツ、JLPT対策は「将来の日本語力を育てる」機能として位置付けた。短期的に困っていることへの対処と、長期的な語学力向上——この二つを同じアプリで役割分担させることで、学習初期から日本語が一定のレベルに達した後まで、継続して使い続けられるアプリになる。

機能が増えることは、使いにくさにもつながりうる。だからこそ、各機能の役割を明確にし、ホーム画面では「今すぐ使う機能」へ迷わずアクセスできる導線を優先した。機能の多さではなく、役割の明確さがこのアプリを成立させている。

開発を通じて学んだこと——学習アプリが「続けられる場所」になるために

ゲンゴーの開発を通じて、学習アプリの設計において何が本質的に重要かが明確になってきた。

第一に、「始めやすさ」と「続けやすさ」は別の問題だ。4択クイズはハードルを下げて学習を始めやすくするが、それだけでは長期的な継続は難しい。正解時の達成感、即時フィードバック、1ユニットを10問に絞った軽さ——これらが重なって初めて「また明日もやろう」という気持ちが生まれる。UIのシンプルさも同様で、機能の少なさが目的ではなく、勉強以外のことに意識を取られない環境を作ることが目的だ。

第二に、学習コンテンツの品質は、現場との距離で決まる。建設用語700問を収録したが、現場で実際に使われている言葉でなければ価値は半減する。今後の改善課題として、実際の現場で使われる単語を継続的に収集し、問題集へ反映していく構想がある。固定された教材ではなく、現場の実態に合わせて育つ教材にしていくことが、建設特化アプリとしての長期的な価値につながる。

第三に、ユーザーの実生活に寄り添う設計が最優先だ。多言語対応、翻訳機能、AI対話サポート——これらは「あると便利な機能」ではなく、ユーザーの置かれた状況から逆算して必要だと判断したものだ。現場で手袋をしたまま使えること、母語がベトナム語やインドネシア語であっても安心して学べること、学習途中でも現場でのコミュニケーションが途切れないこと。ユーザーの現実を具体的に想像することが、機能選定の判断基準になった。

現時点のゲンゴーは、建設現場特化の語彙学習、JLPT N4対策、多言語対応(日英越尼)、4択クイズ形式、動画コンテンツ、翻訳・AI対話機能という土台を持つ。今後は、ゲーミフィケーション要素の強化(より正解が嬉しくなる演出)、AIによる学習の個別最適化(学習者の進捗・苦手に合わせた出題)、現場語彙のアップデートという方向で改善を続けていく。

ゲンゴーが最終的に目指しているのは、外国人技能実習生が日本語を学ぶことで、仕事がしやすくなり、生活が安定し、日本での暮らし全体が豊かになることだ。言葉の壁を下げることは、定着率の向上につながる。定着率の向上は、建設現場の人手不足という構造課題への一つの答えになりうる。

小さなクイズアプリが、現場の人材定着という大きな課題と接続している——その構造を常に意識しながら、このプロジェクトをさらに前に進めていきたいと考えている。

畑井駿佑

畑井駿佑

micomia株式会社の代表取締役です。 エンジニア、プロジェクトマネージャーを経験し、2024年にUI/UXにこだわった使いやすいシステム/アプリを開発するmicomia株式会社を設立しました。

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