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AI野球コーチアプリ「NEOLAB AI」開発記録|スポーツ×AI・チャットUI・個別最適化の設計思想

AI野球コーチアプリ「NEOLAB AI」開発記録|スポーツ×AI・チャットUI・個別最適化の設計思想

開発の背景——野球指導の「情報過多」という逆説

野球の上達に関する情報は、今やインターネット上に豊富に存在している。ピッチングフォーム、球速アップのトレーニング、ケアの方法まで、検索すれば無数の記事や動画がヒットする。しかし、そこに一つの逆説がある。情報が増えれば増えるほど、自分に本当に必要な内容へたどり着くことが難しくなるという逆説だ。

NEOLAB AIを開発したNEOLABは、野球のピッチング指導を専門とするスクールで、長年にわたって独自の投球ノウハウを蓄積してきた。プライベートレッスン、オンラインサロン、出張指導など複数の提供形態を持ち、技術と指導を接続する土台もすでにあった。しかし、課題は別のところにあった。

「情報があることと、届くことは別の話だった」——これがこのプロジェクトの出発点だ。どれだけ価値あるノウハウを蓄積していても、それがユーザーにとって「今必要な形」で届かなければ、実際の行動にはつながらない。記事や動画は体系的に知識を伝えるには優れた形式だが、利用者の視点では、自分に関係ある情報とそうでない情報を自分で選び分ける必要がある。この「選び分けの手間」が、情報活用の大きな障壁になっていた。

たとえばある選手が「リリースポイントがバラつく」という悩みを抱えて検索したとする。出てくるのは、フォーム全般の解説記事、体幹トレーニングの動画、メンタル面のアドバイスなど、さまざまなコンテンツだ。どれが自分の問題に対応しているか、その判断に時間がかかる。そしてNEOLABが持つ「NEOLABとしての答え」はどこにも見当たらない。

こうした状況に対して設計されたのがNEOLAB AIだ。新しい情報を大量に生産するためのアプリではなく、すでに存在するNEOLABの専門知識を、ユーザーの質問や背景に合わせて適切に届けるための仕組みである。AIを使ったこと自体がこのアプリの価値なのではなく、知見の「届け方」を変えたことが本質だ。

スポーツAIの本質的な課題——回答の信頼性をどう担保するか

AIアプリを開発するとき、外から見ると最も重要に見えるのは「回答の精度」だ。しかし実際に開発を進めると、精度の前にもっと根本的な問いに直面する。「誰の知見として答えを返すか」という問いだ。

NEOLAB AIで求められていたのは、「野球の一般論」ではなく「NEOLABらしい答え」だった。この違いは小さく見えて、スポーツAIの質を大きく左右するポイントだ。

開発上の難所として最も大きかったのが、AIが参照する情報処理の工程で起きる問題だ。AIは、与えられた知識を参照しながら答えを生成するが、その途中で「一般的な回答」を生成しやすい傾向がある。つまり、NEOLABの考え方を学習させても、AIが生成する文章は徐々に汎用的な野球指導の方向に寄っていってしまうことがある。これはAIアプリ開発において非常によく起きる課題だ。

この問題に対してNEOLAB AIが採った解決策は、技術だけで完結させないというアプローチだった。出力の精度を高めるために、NEOLABのコーチ自身が調整に積極的に関与した。普段の指導現場を知っているからこそ気づける「言葉の違和感」をフィードバックし、何度もブラッシュアップを重ねた。

このプロセスには重要な示唆がある。AIアプリの開発は、エンジニアとデザイナーだけで完成するものではない。現場の専門家と一緒に「言葉の出し方」を磨くことで、初めて実用レベルに近づく。技術的な精度と、ドメイン専門家の視点の両方が揃って初めて、「そのブランドらしい答え」が返せるようになる。

なぜ精度をそこまで重視したのか。それは、回答の質がそのままサービスの価値に直結するからだ。UIがどれだけ洗練されていても、返ってくる答えがNEOLABの思想からずれていれば、このアプリに意味はない。UIよりも先に整えるべき要素は何か——開発の優先順位を明確にした判断だった。

「個別最適化」という価値

回答の信頼性と並んで重要だったのが、個別最適化という設計思想だ。スポーツ指導において、全員に同じ言葉がそのまま当てはまるとは限らない。身体の特徴も、悩みも、経験値も異なるからだ。

一般的な記事や動画がどうしても多くの人に向けた表現になるのに対し、NEOLAB AIは「今の自分に必要な助言かどうか」を判断する手間をなくすことを目指した。ユーザーが自分の状況を入力すれば、NEOLABの知見がその人向けにカスタマイズされた形で返ってくる。

これは単なる便利さではない。合っていない練習を続けることや、故障リスクの増加、モチベーション低下——こうした問題の多くは、「自分に合った助言へたどり着けないこと」が原因になっている。個別最適化された助言は、練習の質そのものを左右する重要な価値だ。

チャットUIを選んだ理由と設計思想

AIアプリを設計するうえで、回答の中身と同じくらい重要なのが「質問しやすさ」だ。どれだけ良い答えを返せても、ユーザーが気軽に使えなければその価値は十分に伝わらない。NEOLAB AIは、入口の設計にもかなり力を入れたアプリだ。

検索であれば、単語を並べればある程度結果が出てくる。一方でAIに質問する場合、ユーザーは自分の悩みを文章として入力する必要がある。このとき、「何を聞いていいかわからない」「入力が面倒」という感覚があると、そもそも使われなくなる。

NEOLAB AIがチャットUIを採用した理由は、これが現在のAIサービスで最も「質問を自然に投げかけやすい構造」だからだ。LINEやメッセージアプリで日常的に会話しているユーザーにとって、チャット形式は最も抵抗が少ない入力インターフェースだ。流行を取り入れたというより、最も相談しやすい形を選んだ結果がチャットUIだった。

ブランドの印象をUIに引き継ぐ

UIの設計でもう一つ重要だったのが、NEOLABのブランドカラーをアプリ全体に活かすという判断だ。これはデザイン上の統一感のためだけではない。ユーザーが「NEOLABの意見を聞いている」という感覚を維持するために重要な設計だ。

AIアプリは、どこからともなくAIが答えているように感じられると、回答への信頼感が下がりやすい。NEOLAB AIでは、画面を見た瞬間に「これはNEOLABのアプリだ」とわかるデザインにすることで、NEOLABブランドへの信頼感をそのままアプリ体験の信頼感につなげている。

さらに、AIアプリではUIの完成度が回答への信頼感にも影響する。動きが不自然だったり、入力しづらかったりすると、返ってくる文章そのものまで信頼しにくくなってしまう。スタイリッシュさと使いやすさを両立することは、単なる見た目の問題ではなく、コンテンツへの信頼性にも直結する。

そのためNEOLAB AIでは、自然にタッチできる入力欄、大きくわかりやすいナビゲーションメニューなど、初回利用者でも迷いにくい設計が重視された。また、アプリ内にNEOLABの他のサービス情報も掲載し、AIチャットを起点として他の価値へ接続できる構成になっている。

リアル指導とAIの役割分担設計

AIスポーツアプリについて語るとき、必ず出てくる問いがある。「リアルの指導は不要になるのか」というものだ。NEOLAB AIの設計において、この答えは明確だ。リアル指導とAIは競合ではなく、補完関係にある。

野球の指導では、フォームや身体の使い方など、実際の動作を見ながら調整する必要がある部分がある。この領域は、現時点ではリアル指導の価値が大きいままだ。NEOLAB AIも、そうした身体動作そのものを完全に置き換えるアプリとして設計されたわけではない。位置づけは「知識や考え方にすぐアクセスできる支援ツール」だ。

AIは「常にそばにいるコーチ」として機能する

では、AIが価値を発揮するのはどこか。それは「練習のたびに指導者がそばにいるとは限らない」という現実の隙間だ。

特に価値が高いのが、練習前と練習後というタイミングだ。練習中は、考えるよりも実際に体を動かすことが中心になる。しかし、練習前には「今日は何を意識するか」を考えやすく、練習後には「何が良くて何が悪かったか」を振り返りやすい時間がある。NEOLAB AIは、この振り返りと次の改善の接点として機能するよう設計されている。

想定される利用シーンとしては、練習後の反省、試合後の振り返り、ケアの仕方の相談などが挙げられる。これまでコーチに聞いていた内容を、必要なときにすぐ相談できるようにするアプリだ。この「いつでも聞ける状態」がリアル指導にはない利点であり、改善のループを回しやすくする。

知りたいことをそのまま聞けて、検索の手間なく返ってくる。この小さな時短の積み重ねが、行動の変化につながっていく。

リアルサービスとの接続を設計に組み込む

NEOLAB AIで注目すべき設計の一つが、管理画面から個別に課金を有効にする機能だ。一般ユーザー向けの課金だけでなく、オンラインサロンやリアルスクールの生徒に対して管理画面から個別にアクセス権を付与できる仕組みが搭載されている。

この機能が何を意味するか。AIアプリ単体で完結させるのではなく、既存のリアル指導サービスとAIアプリを連動させる前提で設計されているということだ。たとえば、スクールの生徒には特別にアプリを使えるようにする、オンラインサロン会員向けにAI機能を特典として提供するといった使い方が可能になる。

AIはリアルの指導を不要にするのではなく、リアルでしかできない価値を残しながら、その外側の時間を埋める補完として機能する。この「補完関係」という考え方は、今後のAIスポーツサービス全体にとっても重要なフレームだ。

AIアプリが事業を広げる可能性——検索からAIへのシフト

AIアプリには大きく二つの使い方がある。一つは既存サービスの補助機能として使うこと。もう一つは、新たな事業接点として設計すること。NEOLAB AIは明確に後者だ。

NEOLABが持つ投球ノウハウは、スクールに通っている生徒だけに届けるには「もったいない」という考え方があった。全国の野球選手、特に地方在住でNEOLABのスクールに通えない選手にとっても、そのノウハウには価値がある。NEOLAB AIには、一般ユーザーでもNEOLABのピッチングノウハウにアクセスできる課金機能が搭載されている。これにより、地理的制約を超えた価値提供が可能になった。

事業ポートフォリオの拡張装置としてのAIアプリ

このアプリが登場することで、NEOLABの事業構造が変わった。従来のスクール、オンラインサロン、出張指導に加え、「AIアプリ」という新しい事業接点が生まれた。

さらに重要なのは、アプリがサービス全体のハブになっている点だ。NEOLAB AIのアプリ内には、他の自社サービスへの導線も設けられている。AIチャットを使うだけで終わるのではなく、そこからスクール体験や他のサービスへと接続できる構成だ。アプリを一つの接点ハブとして活用することで、オフラインのスクールへの誘導も自然に設計できる。

検索エンジンからAIへ——情報の受け取り方の変化

この変化をもっと大きな文脈で捉えると、スポーツ指導における情報の受け取り方そのものが変わり始めているということだ。

従来は、検索結果の中から記事や動画を比較し、自分に合うものを選ぶ流れが一般的だった。今後は、知りたいことをそのまま投げかけ、自分向けの形で返ってくる方が自然になる。NEOLAB AIの価値も、まさにこの方向にある。

スポーツ領域は、まだAI活用が十分に進んでいない分野だ。一方でNEOLABは、データ解析やオンラインサロン、プライベートレッスンなど、技術と指導を接続しやすい土台をすでに持っている。そこにAIが入ることで、知見の届け方が大きく変わった。

ユーザーの行動変化も重要だ。「検索して選ぶ体験」から「聞いて受け取る体験」へ。一覧から探すより、質問して答えを得る方が速い。その体験の差は、継続利用率にも直結する。スポーツ指導も、確実にこの流れの中に入ってきている。

今後の展望——フォーム解析・動画連携へ

現時点のNEOLAB AIは、主にAI対話、課金設計、UI設計が中心だ。しかし、その先には姿勢解析AIによるフォーム修正や、投球フォーム解析、動画連携まで含めた進化の可能性がある。テキストベースの対話から、身体動作の理解まで含めたスポーツAIへ。こうした発展は、スポーツAIの価値をさらに高めていくはずだ。

開発を通じて学んだこと——AIアプリ開発の本質

NEOLAB AIの開発を通じて、AIアプリ・スポーツアプリ開発に共通する重要な知見が見えてきた。

1. AIアプリの価値は「誰の知見か」で決まる

AIを導入するだけではブランド価値にならない。「NEOLABらしい答えを返す」という目標のように、AIがどのブランドの知見としてどのように答えるかを明確にすることが、サービスとしての差別化につながる。汎用AIとの差は、専門知識の深さと「らしさ」の再現度にある。

2. 専門家との協働なしに精度は上がらない

AIの出力精度は、技術的なチューニングだけでは限界がある。現場の専門家が実際の出力を見て、「これはNEOLABの言い方ではない」「こう表現すべきだ」というフィードバックを繰り返すことで、初めてブランドらしい回答が安定してくる。AI開発は、エンジニアとクライアントの共同作業だ。

3. 入口のUXが使われるかどうかを左右する

どれだけ良い回答を返せるAIを作っても、ユーザーが質問しにくければ使われない。チャットUIの採用、ブランドカラーの活用、迷いのないナビゲーション設計——これらは回答精度と同じくらい重要な要素だ。

4. リアルとAIを競合させない設計が重要

「AIがあればリアル不要」という方向ではなく、「AIがあるからリアルがさらに活きる」という補完関係の設計が、継続的な価値を生む。管理画面でリアル受講生にアクセス権を付与する機能は、そのまま既存事業との連携を生む仕組みになっている。

5. AIアプリは事業の接点を増やす装置になる

業務効率化ツールとしてだけでなく、新しい顧客層への接点として機能する。地理的制約を超え、これまでリーチできなかったユーザーに価値を届けられる。そしてアプリを起点に、他のサービスへ誘導する構造を設計することで、事業全体のポートフォリオが広がる。

NEOLAB AIが示しているのは、AIを使ったことではなく、利用者が求める形式で専門知識を届ける方向へ進化したことにある。情報が増え続ける時代だからこそ、必要な人に必要な内容を適切に返せる仕組みが、サービス価値の中心になっていく。検索して選ぶ体験から、聞いて受け取る体験へ——その変化の先端に、NEOLAB AIはある。

畑井駿佑

畑井駿佑

micomia株式会社の代表取締役です。 エンジニア、プロジェクトマネージャーを経験し、2024年にUI/UXにこだわった使いやすいシステム/アプリを開発するmicomia株式会社を設立しました。

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